オークス シーザリオ

シーザリオ

今週はいよいよ牝馬クラシックの2冠目、優駿牝馬のオークスが行われる。
このレースは、どちらかと言えば「牝馬らしい牝馬」ではなく、どことなく男まさりの牝馬が優勝をさらっていくイメージがある。

いや、「さらっていく」というのはあまり適切な表現ではないかもしれない。
むしろ「力でねじ伏せる」競馬で優勝する牝馬こそ、優駿牝馬にふさわしい気がする。
そして、まさにその「ねじ伏せる」競馬で着差以上の強さを見せたのが、スペシャルウィークのセカンドクロップ・シーザリオであった。

シーザリオは、青毛の馬体を常にピカピカに光らせていたその美しい馬体が印象を強く残しているが、その走りは、まるで悪魔のような妖しい魅力をともなった競走馬であった。
父・スペシャルウィークに、サドラーズウェルズ産駒のキロフピリミエールという超良血の好馬体から繰り出される追い込みは、本当に息を呑むような、牝馬であることを忘れさせるような凄味のある追い込みであった。

父・スペシャルウィークは、どちらかと言えば薄手の、サンデーサイレンス産駒としては珍しいステイヤーの体系であったせいもあるが、あまり見栄えのする馬ではなかったという印象がある。
しかしその娘のシーザリオは、まるで父とは正反対の、筋骨隆々という感じの馬体であったが、タイプ的には実は父に非常に似通っていた部分が多かったように思う。
ただ、残念ながら、そのあまりに強靭な脚力が仇となり、競走生活はわずか6戦という短命であった。

デビュー勝ちを収めたものの、時計やパフォーマンスからはそれほど騒がれることなく2戦目を迎えたシーザリオであったが、2戦目の500万特別では、武豊騎手騎乗の圧倒的人気、後に重賞勝ちを収め、GIでもそこそこ人気になったアドマイヤフジを競り落とす勝負強さを見せていた。
このときのシーザリオの評価は4番人気であったことからも、それほど期待値の大きな牝馬とは、まだこの時点では言えなかったわけだが、将来を嘱望されたアドマイヤフジを2戦目にして退けたことから、シーザリオの評価が「新たに注目しなければならない馬」というものに変わりつつあった。
ちなみにこのレースでは、後にスプリングステークスを優勝し、皐月賞候補にまで評価を高めたダンスインザモアも4着に沈めていた。

そしてデビュー3戦目は、シーザリオにとって初めての重賞挑戦となったフラワーカップであった。
距離適性とローテーションを重視して桜花賞へのステップとして陣営が選択したこのレースでは、評判馬を破った前走の内容が高く評価され、圧倒的1番人気に推されていた。
このとき私は、例によってシーザリオを外して馬券を買っていたのだが、レースを終えて(というか、道中の手ごたえを見て)、すぐに「後悔→反省→シーザリオのファン」というあっという間の変わり身を見せた。
先行して、軽く仕掛けられただけで後続を一気に突き放すその脚力を見せられては、いくらヒネクレ者の私でも、脱帽する以外にすべがなかった。

デビュー以来3戦すべて主戦を務めた福永祐一ジョッキーは、マイルの距離なら最大のライバルであったラインクラフトの鞍上を務めるというマイナス材料をはねのけ、続く桜花賞でも1番人気に推されるのであった。
そして、この私も、前走のフラワーカップの走りを目の当たりにし、本命視せざるを得ず、シーザリオから馬券を買った。
代わりに、人気2頭を買うことだけはさすがにできず、2番人気のラインクラフトを外して買ったため、例によって馬券的中はならなかった。
圧倒的に強い馬を買おうと切ろうと、いずれにしても桜花賞には縁のない私であると、このときほど実感したことはない。
逆に言えば、そのくらいこのシーザリオに魅力を感じていたのだ。

こうして桜花賞は残念ながらラインクラフトの2着に敗れてしまったが、オークスの舞台では絶対に巻き返すと確信できる豪快な追い込みであった。
そして、距離適性ではむしろこちらにあると目されたオークスでは圧倒的な1番人気に推されたシーザリオであった。
単勝1.5倍・・・負けるはずがないとさえ考えていた。
しかし、さすがにGI、結果から言えば、このオークスを人気に応えて制したシーザリオではあったが、楽にレースを運ばせてもらえるほど、競馬は甘いものではなかった。

スタートからポジション争いに敗れ、道中は終始後方から、しかも、逃げたエイシンテンダーが作ったペースは超スロー、動くに動けない展開になってしまい、シーザリオはGIには縁がないのかと思えるほどの絶望感の中での競馬になってしまった。
しかしシーザリオは、そんな苦境をものともせず、自らの脚力によって大ピンチを打破するのであった。

4コーナーの位置取りは12番手。
ほぼ絶望と目を覆わんばかりにレースを観戦していたが、そこからなんと、上がり3Fが33.3秒というとてつもない末脚を繰り出し、クビ差エアメサイアをとらえて優駿牝馬の称号を手に入れるシーザリオであった。

結果としてラストランとなったアメリカンオークスでの圧勝劇がシーザリオの代名詞ともなっている印象はあるが、私にとってのシーザリオと言えば、日本のオークスで見せた、奇跡に近いあの末脚が真っ先に思い浮かぶ。
そして、あのインパクトは、この後もおそらく私の中から消え去ることはないはずと確信している。