レースの感想

弟は大丈夫だ!・・・オルフェーヴル三冠馬!~第72回菊花賞(GI)

4コーナー手前で大外をまくって一気に先頭に立ったとき、そこにはメジロマックイーンの姿があった。
直線に入ってすぐに他馬を引き離したとき、ナリタブライアンの豪脚がうなっていた。
そしてそのキレ味は、まさにあのディープインパクトを彷彿とさせた。
そしてゴール前・・・これだけの大舞台で、もう早々と追うのをやめたジョッキー、そこにはあの岡部幸雄元騎手とシンボリルドルフの面影を見て取ることができた・・・

直線で突き放したとき、「弟は大丈夫だ!」と、私は思った。
ナリタブライアンが三冠馬になった菊花賞で、杉本アナウンサーが発した名言である。
4年前の菊花賞――私は大ファンであるホクトスルタンと、全兄ドリームジャーニーが出走したあの菊花賞を思い出していた。
手ごたえ抜群で直線に向いたホクトスルタン、そして、馬群に隠れてしまった小さな小さなドリームジャーニー・・・

ドリームジャーニーも勝った神戸新聞杯をオルフェーヴルが快勝した後、池江調教師は「首の使い方がマックイーンに似てきた」という趣旨のコメントをしていたが、正直言って私は「どこがだ?」と思っていた。
しかし、パドックに現れたピカピカの馬体は、小柄だったはずのオルフェーヴルの春までの姿ではなく、まさに完成したメジロマックイーンの姿そのものであった。
大好きな馬だったのに――私にはやはり馬を見る目なんかこれっぽっちもないのだ。

パドックを歩く馬を見て鳥肌が立つなんて、あの日の京都大賞典のメジロマックイーン以来のことだ。
直後を歩いていたサンビームは、普段はどうか知らないが、この日はひどくイレ込んでいるように見えた。
それでも、目の前を歩くオルフェーヴルとは常に一定の距離を保ちながら歩いていた――おそらく威圧されていたのだろう。

そう、今のオルフェーヴルには、これまでになかった圧倒的な威圧感が備わっている。
それは三冠馬になって得たものではない。
すでにレース前から他馬を圧倒していた。
シングスピールが勝ったジャパンカップでエリシオの馬体を間近で見たときも威圧感を覚えたものだが、あれは馬体からくるヴィジュアルな威圧感であった。
しかしオルフェーヴルのそれは、体内の一番奥深いところから滾々と沸き立っているように感じられた。
テレビの前にいながら、オルフェーヴルだけはすぐ目の前にいるような錯覚に陥るのだ。

精神的な成長が大きかったのは確かだが、この馬は、フィジカルな面では限りなく完成に近付いているように感じるものの、しかしメンタルな部分ではまだまだ良化の余地がある。
私が評価を下げた――いや、印的にそう言わざるを得ないのだ――理由は、神戸新聞杯のあの力みようからであった。
これで淀の3000mを乗り切ることができるのかと懐疑的にならざるを得なかったのだ。
ディープインパクトはそれでも勝ってしまったが、オルフェーヴルの引っ張り方はディープ以上に厳しいと思われたが・・・

レースでもやはり相当力んで走っていた。
あのビワハヤヒデも、特に前半は相当力んで走っているように見えたが、しかしオルフェーヴルの力みは見た目の印象ではなく、完全な「力み」であった。
これで果たして最後までもつのか――不安が過った。
ただ、フレールジャックの平均ペースの逃げに注文をつけにいった川田騎手・ロッカヴェラーノが、結果としてはこのレースをハイレベルの菊花賞にし、そしてオルフェーヴルをも助けた感はある。

それにしても力んでいたことは事実だし、それでもまったく堪えていなかったオルフェーヴルの逞しさ。
これはちょっと今までにはないタイプの三冠馬と言うべきだろう。
何事もなかったように、これまでよりも数段パワーアップして直線で弾かれたように先頭に立ち、そして何事もなかったようにゴール板を駆け抜けた。
稍重から良に回復したとは言え、ラスト1Fはほぼ流して3分2秒8という時計は実質のレコード、やはりこの馬には内も外も無関係であった。

それにしても、どれだけ優れた心肺機能の持ち主なのだろう。
それにしても、どれだけ素晴らしい成長力だろう。
それにしても・・・

ゴールインして、この大舞台でもまた池添騎手を振り落としたオルフェーヴル、しかしデビュー戦のときとは違い、上から池添騎手を「おい、何やってるんだお前は・・・」という感じで見下ろしていた。
オルフェーヴルは池添騎手を見下ろして「笑って」いた。

原点回帰。
こういうことを言うと叩かれそうだが、この馬は過去の名馬を凌ぐほどすごい馬かもしれない。
もしかしたら、あのルドルフさえも・・・
それなのに、デビュー戦と同じことを、三冠達成というとてつもない偉業の直後にやってみせた人馬は、もう一度ゼロからの出発を決意しているかのように頼もしく映った。

2着ウインバリアシオンは最後方からの競馬となったが、安藤騎手としては「奇襲」しか勝つための方法が見つからなかったのだろう。
ラストの伸びは目を見張るものがあった。
3着トーセンラーは、外から迫るのではとても競馬にならないと考えていたが、私が思っている以上にこの馬は走りそうだ。
長丁場が合いそうなディープ産駒がようやく現れた。
この人気2頭は今後も注目。

期待したフェイトフルウォーは、もっと積極的な競馬をしてほしかった。
厳しい流れではあったが、これは残念。
ただ、この馬は完成度の面で劣っていた気も確かにする。
だから、これも今後注目したい。

とにかくみんな、人馬ともお疲れさまでした。

あれ~??今年は荒れなかった・・・エイシンアポロン復活の狼煙!~第14回富士S(GIII)

てっきり荒れると思っていたが、まあだいたいこんなものだろう。
予想コーナーではひどい予想になってしまい、まったくお恥ずかしい限りである。
私の印をご覧になって馬券を買ってしまった少数派の方、私はキリストではないので、信じても救うことができませんでした・・・申し訳ありません。
ということで、今年は久しぶりに平穏無事のサウジアラビアロイヤルカップ富士ステークスであったが、勝ったエイシンアポロンはやはり走る。

今日は道悪馬場。
府中の直線で、ノリさんのカウアイレーンを除いてみんなが外を回るというのは、なんだかものすごく久しぶりに見たような気がする。
はずれた直後にこれを書いている関係で、いきなり余談になってしまったが、しかしエイシンアポロン、実績通りの道悪巧者ぶりを発揮して見せた。

意外にもレインボーペガサスが逃げてスローの競馬になったから馬群は一団。
4コーナーではみなが外を回るその一番外からの追い込みが決まるのだから、この馬、相当道悪は上手いのだろう。
ローテーション的に天皇賞・秋は考えられないから、マイルチャンピオンシップにまわることになると思うが、何か昨年の天皇賞・秋で大きな不利を被って、精神的にどうなるかな、と思っていただけに、この長期休養というのは「ズバリ的中」であった。

2着のアプリコットフィズは、これで完全復活と言えるだろう。
エイシンアポロンと「復活の狼煙馬券」を読み切ったファンは見事的中しただろう。
なんだかもう今回は状態面も踏まえれば横一線という感じの、いかにも富士Sらしい富士Sになった関係で、しかも本命が13番人気(14着)のスズジュピターであった関係で、あれも来るんじゃないか、これも来るんじゃないかという具合にやたらとバラバラと買ってしまい、とうとうほとんどの馬の馬券を買ってしまった。

しかし、予想のコーナーに書いた通り、エイシンアポロンは「頭」をはずしていたし、このアプリコットフィズに関しては、ラインブラッドとダブルオーセブンとカウアイレーンと同じく、たった4頭の「馬券圏外」という読みをしてしまい、そして見事に2着であった。
こちらも予想のところで書いた通り、アブソリュート(シンガリ負け)やドモナラズ(最低人気・ブービー負け)、さらにはスズカコーズウェイ(15番人気・10着)あたりまで手を広げたのに、まるっきりのハズレであった。

なんだか自分が世界で一番馬券がヘタクソなのではないかと、今はちょっと疑っている。
まあでもそれはそれでなかなか誇らしい世界一であるとは思うが。
明日の菊花賞、大丈夫かな・・・

と、また余談になってしまったが、3着マイネルラクリマは、外が伸びるインコースからの競馬ということで、ラストはよく追い込んだものの3着に終わった。
この馬はかなりやれるのではないかと思っていたが、しかしさすがは強いとされた4歳世代の馬たちが相手だけに、ここは仕方がないところだろう。

そして、たった今気付いたのだが、なんとエイシンアポロンは1番人気だったんですね!
富士Sとは思えない・・・
ストロングリターンが人気だとばかり思っていたが、しかしそのストロングリターンは4着ということで、おそらくそれほど出来上がっていなかったのではないかと考えると、まずまず形は作ったのかな、という印象。
そのころは京都の馬場がどうなっているかにもよるが、おそらくこれはマイルCSでは変わってくるだろう。

休み明けのトライアンフマーチは仕方がなかった気もするが、スズジュピターの次に期待したライブコンサートは、エイシンアポロンからコンマ7秒差とは言え、9着に終わった。
道悪はこなせるはずだから、これは少し力の翳りを感じざるを得ない負けになってしまった印象が大きい。
12着に敗れたダンスファンタジアも、血統的に道悪はこなして不思議ないと思っていたが、しかし相変わらず走りが硬く、これだと道悪はこなせないかもしれない。

道悪限定で期待したアブソリュートは、最内枠で致命的な出遅れ・・・
この馬も少し復活が難しいと考えるのが自然なのかもしれない。
ライブコンサートといいアブソリュートといい、マイル戦ではトップにランキングされていた馬たちだけに、今年の富士Sは配当だけでなく、ちょっと寂しい気分にさせられるレースになってしまったと個人的には思う。

さあ、しかし明日は待ちに待った菊花賞。
三冠馬誕生の劇的瞬間に立ち会うことができるかもしれないのだ。
軍資金は減ってしまったが、気持ちをしっかり切り換えて、明日こそ大穴的中を目指すぞ!

角居流、岩田流、素質全開アヴェ戴冠!~第16回秋華賞(GI)

シンガポールから運ばれてきた「切ない風」が2週後の京都に吹き荒れた。
個人的にはオルフェーヴルの菊花賞と同じくらい勝つ確率があると踏んでいたホエールキャプチャが3着に敗れた。
勝った良血馬・アヴェンチュラはただただ強かった。

確かに馬場差はあった。
前日に重馬場で行われたデイリー杯2歳ステークスで、デビュー戦の走りからそれほど重は上手くないのではないかと思われたクラレントが、インコースから強烈なキレ味を発揮して差し切って見せたし、昨日の秋華賞が行われたころは、インコースだけが良馬場で外は稍重といった印象の馬場であった。
勝ち時計の1分58秒2も、もしかしたらファビラスラフインやファインモーションのレコードと同等の価値があるかもしれない。

しかし、内容的にアヴェンチュラは完勝であり、インを引いたときの岩田騎手の隙のないコース取り、勝負勘というのは相変わらず抜群であった。
文句なし。
レーヴディソールとのチャンピオン対決の権利はアヴェンチュラが手にしたと見るべきだろう。
角居厩舎で岩田騎手のコンビと言えばあのウオッカを思い出さずにはいられないが、アヴェンチュラの盛り上がった馬体は、どこかかの名馬を彷彿とさせるものであった。

角居調教師は、トライアルを使わずに、敢えて古馬とぶつけた。
その期待に応えたアヴェンチュラのクイーンステークスは、確かに強い競馬であったが、陣営のコメントにもあった通り、この馬は勝負どころで少しズブいというか、モタつくところがある馬で、それが多頭数の京都内回りではどうかと勘案したが、しかしそこは岩田騎手、さすがに名手であった。
また、強い馬にするために敢えて強い馬とぶつけるという角居調教師の流儀も素晴らしかった。

そして忘れてはいけないのが2着キョウワジャンヌの快走。
最内を引いた時点でこういう結果も十分考えられただけに、飯田騎手もこのチャンスをモノにしたかっただろうが、しかし今回は勝ち馬が強かった。
結果は残念であったが、こういう速い時計の競馬に対応できたのは、この馬にとっては大きな収穫であった。
これで成長がともなえば、この先かなり楽しめるのではないか。

そして、3着ホエールキャプチャにも触れなければならない。
陣営の仕上げだとか、池添騎手の騎乗だとか、ホエールキャプチャ自身の能力だとか、そういうことではなく、ホエールキャプチャという若い牝馬が、レーヴディソールという怪物牝馬のいないクラシックや秋華賞を大いに盛り上げたという功績についてだ。
今回の競馬はいろいろ思うところもあるが、しかし、どうか陣営のスタッフや池添騎手、そしてホエールキャプチャ自身には胸を張って次に向かってもらいたいと思うのだ。

正直言って、昨日テレビでレースを見て、決着のあとは言葉がなかった。
まさに呆然自失であった。
勝ったアヴェンチュラには申し訳なが、しばらくして襲ってきたのはレースの感動とか馬券がはずれた悔しさとか、そういった競馬における最も基本的な感情ではなく、言いようのない切なさと、言いようのないむなしさであった。

そして正直言って、こういう種類の負けは馬券的な負けとは違って、できることなら二度と味わいたくないという思いも強いが、しかし、ホエールキャプチャはまだ若い馬である。
レーヴディソールに食い下がり、馬込みに入って闘争本能をむき出しにする根性は、いつか身を結ぶと私は信じる。

4着に頑張ったアカンサスは、初めからインコースと決めていた横山典弘騎手のさすがの好騎乗がもたらした4着という印象。
次にあまり過剰人気するようなら、ちょっと怪しんだほうがよいかもしれない。
とは言え、この時計(=1分58秒7)は例年で言えば勝っているような時計だから、展開とコース取りの利はあったとは言え、これもキョウワジャンヌ同様に収穫は大きいだろう。

これに対して春のクラシックホースたちはやはりここでも惨敗という結果に終わった。
このあたりが牝馬の難しいところだ。
マルセリーナはこの馬場で大外からの競馬では初めから運がなかった。
エリンコートは体調一歩もそうだが、これだけ前が厳しい競馬で、しかもホエールキャプチャを徹底的にマークして、勝負所とはいえ一緒に動いては勝ち目はなかった。
昨年(サンテミリオン)に続いて、今年もオークス馬は試練である。

裏開催の府中牝馬ステークスについても少し振り返ろう。
まずは訂正。
私はてっきりこのレースはGIIIであると頭からきめつけていたが、しかし今年からGIIになっていたのだ。
そしてこのGIIレースに出走して注目を集めたのが、昨年の三冠牝馬・アパパネであった。
結果はご存知の通りであるが、この馬の敗因をどこに求めるか――これは重要である。

確かにアパパネは、前哨戦ははじめからレースを捨てているようなところもある馬だが、昨年、そして今年に入って勝ったレースはもう満身創痍というか、精も根も尽き果ててしまうような厳しい競馬を強いられ、そしてそのたびごとに輝いてきた偉大な牝馬である。
昨日の不可解な敗戦は、前哨戦だから負けたというより、その疲れが出ているのではないかという内容に私には映った。
この秋は無理をする必要はないという気もするが・・・

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