ヴァーミリアン 引退

ヴァーミリアン引退~名馬列伝番外編

先日のジャパンカップダートで大敗を喫したヴァーミリアンが現役を引退し、種牡馬入りすることになった。
年齢的にも現在8歳、来年は9歳ということで、骨折や屈腱炎などで長期休養を余儀なくされたのであれば、それも仕方がないかな、という気もするが、今回のヴァーミリアンの引退に関しては、そうした良くない情報をまったく耳にしていなかっただけに、正直少しびっくりであった。
本来であれば、阪神ジュベナイルフィリーズにまつわる名馬列伝を書くべきところであろうが、何しろ、GI最多勝のヴァーミリアンが引退するわけだから、この特別枠を設けないわけにはいかない。

それにしても、陣営の引退決定はまさに英断であった。
私など正直、JCダートは叩き台で、おそらく東京大賞典で変わってくるのだろうなと考え、人気落ち必至の東京大賞典では本命にしてもいいかな、などと考えていたほどだ。
個人的な意見を言えば、もちろん今年のJCダートのようなスピード値に比重が偏り気味のレースでは確かにヴァーミリアンにとってプラスは小さくなってしまうが、それでももっと距離が伸びればまだまだ十分に戦えたと考えているくらいである。
その意味では残念という思いもなくはないが、とにかくここまで本当によく頑張った馬だと思う。

もしかしたら忘れているファンもいるかもしれないが、ディープインパクトと同期のヴァーミリアンと言えば2歳時、出世レースとして一番注目度の高い2歳戦であるラジオたんぱ杯2歳ステークス(現在のラジオNIKKEI杯2歳S)を制しており、その意味では、芝でもディープインパクトらと同等の評価を得ていたわけだから驚く。
初ダートとなったニエフステークスからずっとダートを走り続けて26戦、芝も合わせればトータルで34戦、そのほとんどで崩れることがなかったヴァーミリアンという馬の能力値の高さには、本当に頭の下がる思いだ。

エルコンドルパサー産駒でも、馬体は父以上にガッシリとした体つきで、何かいつも堂々としていたのがこのヴァーミリアンの特徴であった。
見るとすぐに、「あ、ヴァーミリアンだ」とわかってしまうような、そんな迫力ある馬体をほんとうに良く見せる馬であった。
確かにスピードは衰えつつあったようだが、最後のレースでもその馬体の迫力だけは他をはるかに圧倒していた。
走る馬の身体というのはこういう身体なのだと、この馬に教えられた。

カネヒキリとともに一時代を築いた名馬であるが、くしくもそのカネヒキリと同じ年に一度に引退となってしまうのはいかにもさみしい。
ヴァーミリアンの引退は、中央競馬のファンだけでなく、おそらく地方競馬ファンにとっても大きなニュースだろう。
いや、むしろ中央のファン以上にショッキングなニュースとして伝えられたかもしれない。
中央、地方で頂点を極め、しかもその座を長く守り続け、ダート競馬世界最高峰でも4着と頑張った。
キャリアや成績を別にしても、おそらくこういう馬は今後出ないのではないだろうか。

日本の競馬の場合、どうしても芝のレースのように華やかに報じられないダート競馬の現状があるが、それでも紛れもなくこのヴァーミリアンは、近年の競馬界の最大の功績者の1頭であったことは間違いない。
カネヒキリとともに、これは大いに称えられるべきである。

さあ、これから先も、今度は種牡馬としての戦いが待っている。
カネヒキリと違って、(陣営のコメントとは異なるが)どこかまだ燃え尽きていないという印象もあるヴァーミリアンのこれからの大きな仕事に期待しないではいられない。
血統的には配合が少し難しいのかな、という印象もあるが、そこは王者として長く君臨し続けたヴァーミリアンの意地の見せどころだろう。
エルコンドルパサーの血を伝えるという意味においても、ヴァーミリアンの責任は意外と大きいという気もするが、この馬ならきっとそうした責任を全うしてくれるのではないかと疑いはない。

何にしても、しばしの休息をとり、体調をしっかりケアして、次のステップへ向かってほしいと願っている。
本当にお疲れ様でした、ヴァーミリアン!