ステイヤーズS ペインテドブラック

B級名馬列伝#34~ペインテドブラック(第33回ステイヤーズS)

私が競馬を始める前からずっと競馬は続いてきており、その歴史はすでに60年に迫ろうかという時代に突入してきているわけだから、競馬の世界にも、人や馬の一生と同じようにいくつものターニングポイントがあった。

シンザンが5冠馬になったことが最初のターニングポイントだったろうか。
もしかしたらそうかもしれない。
そして私が生まれる少し前に生まれ、私が生まれて間もないころにセンセーションを起こしたハイセイコーの登場もそうであれば、私が競馬熱に冒される直前の大センセーションとなったオグリキャップの登場などは、間違いなくそうした競馬の世界における重要なターニングポイントであった。
そして、人気やカリスマの存在ということではなく、もっと実質的な影響というか、競馬そのもののスタンスをもう一度考え直さなければならないという、実に重要なターニングポイントも確かにあった。
比類なき名種牡馬・サンデーサイレンスの登場である。

サンデーサイレンスの産駒の特徴というと、フジキセキらに代表されるような、どちらかと言えば気性の激しいタイプが好成績を収めていたという印象がある。
しかも、そうした激しい気性でありながらもクラシックで活躍できるような、比較的長距離を得意とする産駒が目立ったのは実に意外なことであった。
父から譲りうけた真黒な青鹿毛、あるいは青毛の馬体も、それがサンデーサイレンスの産駒であることを象徴した、そんな時代であった。

1頭の栗毛馬がいた。
彼もまたサンデーサイレンス産駒であった。
当時、サンデー産駒のクラシック候補生と言えば、みな威圧感あふれる黒光りする馬体が特徴であった。
しかし、彼の馬体は明るい栗毛であった。
彼の名をペインテドブラックという。
明るく美しい栗毛馬に「ペインテドブラック」と名付けるのも、何かヨーロピアンスタイルの小洒落たネーミングセンスが光り、私など、その風体とネーミングから真っ先にファンになった一人だ。

"He is painted black(彼は、真黒です)"――おそらくサンデーサイレンス産駒の多くが誇る真黒で雄大な、威圧感ある馬体を羨望したネーミングだったのではないだろうか。
ペインテドブラックは、男馬としてはスラリとした、どちらかと言えば女馬のような形のスマートな馬であった。
ありとあらゆるタイプを輩出したサンデー産駒でも珍しい部類に入る、典型的なステイヤーであったと言ってもいいだろう(母系のリアルシャダイが出ていたのだろう)。

ところで、ストーンズの"Paint it black!(黒く塗れ)"をご存知の方も多いと思う。
ビートルズに次いでインドの楽器・シタールを採用した、当時としては画期的な曲だったのだと思う。
ペインテドブラックを思い出すと、いつもあの曲も同時に思いだされる。
もちろんそのネーミングにはまったく無関係であったろうが、その"Paint it black!"というタイトルを彷彿とさせる出来事が、第33回のステイヤーズステークスでおこった。

このレースで圧倒的人気だったのが、のちに「七冠馬」となるテイエムオペラオーであった。
このときすでに「皐月賞馬」の称号を得たクラシックホースであったテイエムオペラオーが「単勝1.1倍」という支持を集めることに私もまったく異存はなかった。
何しろ、敗れはしたものの、ダービーと菊花賞でもしっかり3着、2着という安定感を誇っていたからだ。
クラシックホースが同じ年のステイヤーズSに登場すること自体、ちょっとしたニュースになったくらいだ。
だから、オペラオーの「白星」はこの時点でほぼ約束されたようなものであった。

そして、このレースに3番人気という評価(とは言っても、なんと単勝は14倍くらいあった)で出走したのがペイテドブラックであった。
私はこのときも"Paint it black!"を思い出し、彼の単勝と、オペラオーとの馬連を買った。
"Paint his black!"――そう思って買ったのだ。
彼の白星を黒く塗りつぶしてやれ!
そんな思いで、彼のステイヤーの資質に賭けてみたのだ。
ファンである馬が、GIの大舞台ではないけれど、「超」がつくような大物に黒星をつけてほしいという思いであった。

その思いが通じたわけではないだろうが、結果として"Paint his black!"は見事に達成された。
勝負強いテイエムオペラオーをしっかりとクビ差おさえきって、ダービートライアルの青葉賞(このときはブラックの斜行でずいぶんともめた・・・)以来、2つ目の重賞タイトルを手にするのであった。

しかし、単に「重賞制覇」と言っても、破った相手がテイエムオペラオーだから、この勝利は非常に価値のある勝利であった。
それがあってか否かは定かではないが、ペインテドブラックはニュージーランドで種牡馬入りしており、現在もなお活躍していると言う。
産駒はニュージーランドのGIで2着に入るなど、かなりの活躍馬を輩出しており、今後もペインテドブラックの種牡馬としての活躍には、はるか日本からも大きな期待が寄せられている。

ペインテドブラック(牡11歳)・・・父・サンデーサイレンス、母・オークツリー、その父・リアルシャダイ
主な勝ち鞍・成績・・・ステイヤーズS(GII)、青葉賞(GIII)