オークス 同着

競馬の幸せ、幸せの競馬~第71回オークスを終えて

今日は所用があり、(結果を知って余計に)残念ながらリアルタイムで競馬観戦できなかったので、JRAホームページのビデオを見ながらこれを書いている。
そして、ずいぶんと遠い記憶に思い当たった。

記憶が正しければ、帝京高校と国見高校の優勝戦だっただろうか。
この両校が「両校優勝」を飾った高校サッカーの決勝戦があった。
あれは本当に、すばらしい両校優勝であった。
こちらも記憶が正しければ、私よりもいくつか「お兄さん」であった当時の両チームの選手たちは、果たして今日のオークスを目にしただろうか。
もし目にしていたら、何を思っただろうか・・・

自分の大好きな馬が大きなレースを優勝することの喜びは、何物にも代えがたいものがある。
私はその馬のことをもちろんよく知っているが、その馬は私のことなどまったく知るはずがない。
そんなの当たり前のことだ。
ただ、知りあいかどうかなど、選手と観戦者との間にはまったく無関係である。
だから、こちらは多大な感動を走る馬たちからもらっても、ファンが感動しているというのを知ったところで、馬たちは何の感動も覚えない。

競馬ファンでない人からすると、自分と無関係の馬が、しかも時として馬券をはずしたにもかかわらず、自分の好きな馬が勝っただけで喜んでいるということを不思議に思うかもしれない。
いや、それどころかおそらく不思議を通り越して「おめでたいヤツだ」と思うことだろう。
どう思われてもかまわないが、愛馬が勝利する瞬間というのは――(小声で)もしかしたら大万馬券を的中したときよりも――幸せな瞬間でもあるのだ。

馬券はヘタクソだし競馬に詳しくなんてないけれど、それでも私にだって競馬ファンとしてのプライドがある。
だから、愛馬を応援する気持ちはだれにも負けていないつもりでいる。
ただ、観戦者の中にも、やはり「たかだか観戦者」ではない人間もかなりの数存在する。
オーナーはもとより、調教師や助手さん、厩務員さんたちである。
特に、四六時中片時も離れずに担当馬に接している厩務員さんの存在を思うと、「だれにも負けない」なんていうことを軽々しく言えない。

たかだか1cm差でも1mm差でも、ハナ差でも鼻毛の差でも、先にゴールラインを割っていれば勝ち、あとなら負け・・・シビア以外の何物でもないのが勝負の世界である。
1cm差、1mm差、ハナ差、鼻毛の差で勝ったほうは天国だし、負けたほうは地獄を味わうことになる。

今さらではあるが、それが勝負の世界だ。

厩務員さんほどの大きさではきっとないけれど、勝ったほうを応援していればこちらも天国にいる気分になるし、逆の立場なら地獄の気分を味わうことになる。
しかも、それが小差であればあるほど、地獄の苦しみは大きくなる。

きっとこれは厩務員さん以外の関係者の方々も同じだろう。

忘れもしない昨年のあのジャパンカップ、勝ったウオッカの厩務員さんは人目もはばからず泣いていた。
テレビの画面にも大映しになっていたが、こちらにもその感動は伝わってきた。
だが、反面敗れたオウケンブルースリの関係者の方々の気持ちを察すると、あまりにも残酷な決着だけが残されていたというのもまた拭えない事実なのだ。

競馬の世界では、ほとんど差のない2頭の間に生じる「違い」によって、一瞬のうちにその両者を対極の世界へと分け隔ててしまう恐怖がある。
見る者からしてもそれは恐怖だし、関係者にすれば「負けたかもしれない」というただならぬ恐怖にさいなまれながら、勝負が終わったあとでは自分たちにはどうするすべもなく、ただひたすら裁定が下るのを待つのだ。

だから、今日の「両馬優勝」の結果は、この2頭の関係者の方々にとってみれば、そしてこの2頭のファンにとってみれば、どんなに大きな喜びに浸れるのかと思うと、そう考えるだけでこちらもかなりうれしくなる。

どっちも勝ってよかった。
どっちも負けなくてよかった・・・

馬券は例によってかすりもしなかったが、これが本音だ。

ゴール前、特に内で頑張っていたサンテミリオンなんて、もういっぱいいっぱいに首を伸ばして、懸命に桜の女王に食い下がっていた。
強い相手に、「負けてたまるか」という根性をいむき出しにしていた。
だから、負けなくてよかった。

そしてその女王アパパネは、一度は完全に差し返されて、正直ゴール前は分がないと思っていたが、その意地、プライド、これはもうあっぱれ以外の言葉が見つからない。
すばらしい女王だ。
すばらしい女王だからこそ、アパパネ、よく頑張った。
本当に負けなくてよかった。

サンテミリオン、優勝おめでとう!
アパパネ、優勝おめでとう!2冠達成おめでとう!
両馬の関係者の方々、両馬のファンのみなさん、本当によかった!

いつも、見る者ばかりが「幸せ」を感じるのが競馬の世界だが、今日のオークスにサブタイトルをつけるなら「幸せの競馬」だ。
これだから競馬はやめられない。