芦毛 最強

芦毛最強説(2)

先週に引き続いて今週も、「もしかしたら、芦毛馬こそ最強なのでは・・・?」という、
非常にココロもとない説について、なんとかコジツケながらも考察していこうと思う。

先週も触れたように、菊花賞馬は、同じクラシックの中でも皐月賞やダービー以上に菊花賞において活躍するシーンを多く目にするという観点からまた考察を進める。

菊花賞馬というのはイメージ的に、ともすれば豊富なスタミナにばかりそのバランスが偏重し、
どちらかと言えばスピードがおろそかになるのではないか・・・などと考えられがちであるが、
こと芦毛馬に限って言えば、その始祖であるグレイソヴリンやネイティヴダンサーから、
「スピード」というファクターが伝わらないなどというキミョウキテレツな現象が起こるはずもなく、
実際セイウンスカイは菊花賞を当時の世界レコードで制した「速い」皐月賞馬であり、
メジロマックイーンは京都2400mの不滅のレコード(2分22秒7)ホルダーであるし、
タイプ的には彼らに比べてもっともステイヤーらしいステイヤーであったヒシミラクルだって、
中距離の宝塚記念をなかなかの好タイムで優勝していることからもそれは容易に納得できるだろう。

実際、日本の競馬の場合、3200mの天皇賞・春を含めて考えたとしても、
距離的に3000mを超える「マラソンレース」と呼ばれるレースであってさえ、
特にそれがGIレースであれば、道中のラップはヨーロッパの中距離レースと比較してみても、
日本の長距離レースのほうがはるかにハイラップで展開されているのだ。
もちろん、日本とヨーロッパの間には大きな馬場の差異があることも事実ではあるが、
その部分をとっぱらってしまっても何ら問題が生じないくらい、レースラップには違いがあるのだ。

ヨーロッパの中距離レースは、4コーナーまでじっとガマン、とにかくガマン、ひたすらガマンで、
直線に入った刹那、二人目のスターターが再び登場したんじゃないかというくらいの勢いで、
「ヨーイ、ドン!」とリスタートされるのに対し、日本のGI級長距離レースでは、
早目に動いて後続に脚を使わせるという「肉を切らせて骨を断つ」的なレースが多い。
そういった側面からすると、芦毛馬が長距離に適性を示すのは、「たとえ長距離レースであっても、実はスタミナ自体に加えてスピードを持続できる能力に長けている」という、むしろ「スピード能力」のほうが菊花賞や天皇賞・春で芦毛馬に活躍の舞台を設定する最大のファクターなのではないかと、そんな気がするのだ。

というよりも、「スピードを持続する」ということがそもそも本来的に「スタミナ」の意味するところであろう。
だから、一見対極に位置する「スピード」と「スタミナ」という2つのファクターも、
実は表裏一体のファクターであり、芦毛馬にはそうしたスピード能力、すなわち、
言いかえれば「総合力(=底力)」が、ネイティヴダンサーやグレイソヴリンから受け継がれているのではないだろうか。

とすれば、強い競走馬となるためのもっとも重要なファクターであるはずのスピード、スタミナとも優れた芦毛馬が「最強」と成りうる可能性は決して少ないとは言い切れないのだ。
いやむしろ、そう考えれば、これだけ数少ない「芦毛」という毛色から多くの名馬が出ていることの大きな根拠になるのではないかとも思える。

ただ・・・ただしである・・・「牝馬最強説」のところで再三登場した、
肝心のウォッカやダイワスカーレットの馬体は、芦毛からは程遠く、それぞれ鹿毛と栗毛であった。
これは「芦毛最強説」に大きな影を落とす事実である。正直ちょっと痛い。いや、かなり痛い。

ただ、どちらも真黒で雄大な馬体の大種牡馬・サンデーサイレンス系牝馬であることから、
もしかしたら多少なりとも芦毛的要素が作用して偉大な祖父の毛色の色素を薄め、
父の鹿毛や栗毛がその孫娘にそのまま出たのではないか・・・
などとは実はまったく、これっぽっちも思ってはいないのだが、
いずれにしてもダイワスカーレットは芦毛の新種牡馬・チチカステナンゴとの間に、
どうやら芦毛の牝馬を産んだようであるから、このダイワスカーレットの芦毛の娘こそ芦毛最強、
そして牝馬最強説をより確かなものにしてくれるのではないかと、大いに(願望込みで)期待する。

まあ、ダイワスカーレットの場合、芦毛に出ようが白毛に出ようが鼻毛が伸びようが、
「華麗なる一族」の血はちょっとやそっとでは動じないはずだ。
競馬がそんなに単純なものではないと知りながら、どうしても期待せずにはいられない魅力が、
ダイワスカーレットにはある。
もっとも、これは何も私ばかりのことではないだろうが・・・