マーメイドS エアグルーヴ

女傑!~エアグルーヴ

今週の日曜競馬、阪神のメインは、3歳以上古馬牝馬限定のハンデ重賞・マーメイドステークスである。
マーメイドSと言えば、ハンデ戦らしい「大波乱必至のGIII」というイメージが早くも定着しようかという感じさえ覚えるが、かつてこのマーメイドSにも、「女傑」と呼ばれた名牝が勝ち馬として名を刻んでいる。

歴史の浅いマーメイドSであるが、第2回の優勝馬が、その「女傑」であった。
しかも、女傑は女傑でも、彼女の場合は「女傑!」と呼びたくなるような男まさりの競馬が得意であった・・・と、こんなふうに書いてしまうと、マーメイドSの「大波乱」のイメージとはまったくそぐわない別のレースという感じさえしてしまうが、実はこのマーメイドS、その「女傑!」が優勝した当時はまだ別定戦であった。
というより、ハンデ戦になったのはまだ5年前のことだから、ハンディキャップレースとしての今年のマーメイドSは、まだ5回目のことである。

で、その「女傑!」とは、この表記からすでにおわかりの方も多いとは思うが、もちろんあのエアグルーヴである。
エアグルーヴというと、秋華賞を勝ち、ジャパンパップで2着の実績を残したもう1頭の女傑・ファビラスラフインや、ブエナビスタの母である超良血馬のビワハイジなどと同期の牝馬である。
エアグルーヴが男馬に混じって天皇賞・秋を優勝したことはあまりにも有名である。
オークスを勝ち、天皇賞・秋を勝ったエアグルーヴであり、すでにこの時点でもう「女傑!」という言葉はぴったりとあてはまってしまうほど強烈なインパクトがある名馬ではあるが、印象としてはもっとたくさんのGIタイトルを手にしているという気もするのが、いかにもエアグルーヴらしい。

どうしてそんな錯覚めいた不思議な印象がこのエアグルーヴに付きまとうのかと言えば、エアグルーヴが敗れたレースでも非常にきわどい接戦であり、しかもそこでエアグルーヴを負かした相手が、凱旋門賞2着の実績がひときわ輝くエルコンドルパサー、そして内国産のトップであったひと世代年下のスペシャルウィークなどといったたいへんなスターホースとほぼ互角にわたり合ったからである。
また、エアグルーヴの同期の男馬にはどんな馬が活躍していたかというと、この世代のダービーはフサイチコンコルド、菊花賞はダンスインザダークといえば、すぐに「あの世代」を思い出すことができるであろう。

いずれにしても、エアグルーヴの世代、そしてその前後の世代は異常とも思えるほどのハイレベルの世代であった。
その中でも、牝馬ながらにそうしたスターホースと互角に叩きあったという印象から、エアグルーヴがいくつものGIタイトルを手にしていたという錯覚が芽生えるのだと考えている。

この世代は、確かに強いことは強いのだが、強さ以外にもいろいろなエピソードに事欠かない世代であった。
たとえば、このエアグルーヴが桜花賞を熱発で回避しながら、母・ダイナカールに続いてオークスを制し、そして牡馬クラシックの中心であったダンスインザダークもまた皐月賞を熱発で回避し、ダービートライアルのプリンシパルステークスを圧勝し、ダービーで圧倒的人気を集めながら、ダービーではデビュー以来常に熱発に悩まされてきたフサイチコンコルドが優勝するという奇妙な偶然が重なり、「熱発3強」などという言葉も私の仲間内では生まれたくらいだった。
もちろんエアグルーヴ自身にとってはありがたいことではなかったかもしれないが、当時の桜花賞といえば、まだまだ「魔の桜花賞ペース」が普通に巻き起こっていた時代だから、のちに成長したエアグルーヴの姿を思うと、もしかしたらハイペースの桜花賞には出走しなかったことも彼女にとってはプラスに働いていたかもしれない気もする。

成長力といえば、阪神3歳牝馬S(現在の阪神ジュベナイルフィリーズ)では良血ビワハイジの逃げ切りに敗れていたエアグルーヴであったが、年明け緒戦のチューリップ賞ではそのビワハイジを5馬身もちぎり捨てるという大きな変わり身を見せたことが特に強く印象に残っている。
個人的にはエアグルーヴではなくてビワハイジのほうが好きな馬だったので、あのショックもまた計り知れないほど大きいものがあった。
そのくらいエアグルーヴの勝ちっぷりは大きな衝撃となったのだ。
とても「今回は負けちゃったけど、次回はなんとか逆転してほしい・・・」そんなふうには思えないような力の違いを見せつけられた気がしたのだ。

個人的にエアグルーヴの想い出というと、天皇賞・秋でバブルガムフェローを競り落としたり、エルコンドルパサーやスペシャルウィークらと叩きあったことよりも、あのチューリップ賞での勝ちっぷりこそ、エアグルーヴの強さを表現したレースであったという気がしている。

産駒もアドマイヤグルーヴがGI2勝、そしてフォゲッタブルもひょっとしたらスゴイ馬に育っていく可能性があるだけに、母としての活躍からも目を離すことができないエアグルーヴである。