マーメイドS ローズバド

B級名馬列伝#16~ローズバド(第8回マーメイドS)

2010年5月30日に行われた第77回日本ダービーは、キングズベスト産駒のエイシンフラッシュが優勝し、世代のチャンピオンになったことはまだ記憶に新しいところだろう。

そして、その2着は、前年の2歳王者、キングカメハメハ産駒のローズキングダムであった。
年明け2戦のスプリングステークスと皐月賞ではやや精彩を欠いた競馬となったが、ダービーでは2歳チャンピオンとしてその存在感を十分にアピールしたのではないだろうか。

ところでこのローズキングダム、先にもふれたように、父は今をときめくキングカメハメハであるが、その母も競馬ファンにとっては相当になじみ深い牝馬である。
それが、今回のコラムの主役としてご登場いただく「バラ一族」出身のローズバドである。

ローズバドというと、その母のロゼカラーから受け継がれた瞬発力を最大の武器として、歴戦の牝馬を向こうにまわして互角以上の戦いを幾多も繰り広げた記憶に残る名馬である。
惜しくもGIにこそ手が届かなかったが、それでも今週行われるマーメイドステークス(当時はまだ別定戦であり、相当の道悪馬場あった)や桜花賞トライアルのフィリーズレビューを優勝するなど、重賞では母以上に堅実な走りを披露してくれた。

ローズバドというと、自身の母・ロゼカラー(シャーリーハイツ産駒)同様、小柄な馬体でこそあったが、本当に勝負根性に長けた馬であった。
小柄であるだけに、ローズバドが繰り出す後方からの一瞬のキレ味はまさに全身に収縮したバネを効かせたカミソリの鋭さを思わせる素晴らしいキレ味であった。
ただこのローズバド、こちらもやはり母・ロゼカラーから受け継いでしまった「勝ち味の遅さ」が災いして、常にヒロインの引き立て役に徹した競走時代であった。
だから、息子のローズキングダムが朝日杯フューチュリティーステークスを優勝した時には「バラ一族の悲願達成(一族初のGI制覇)」というフレーズが誰ともなく口からほとばしり出たくらいだ。

ローズバドの現役時代の成績を見れば、その気持ちも痛いほどよくわかるはずだ。
小柄な馬体の牝馬がタフに走り続けて26戦、そのうち先頭でゴールインを果たしたのは、未勝利戦、フィリーズレビュー、そして古馬になってから唯一の勝ち鞍であった第8回のマーメイドSと、たったの3戦だけであった。
その反面、ローズバドが記録した2着の回数は、全体の4分の1以上にものぼる6回である。
3着も4回を記録しているから、勝率は1割をわずかに超えるにとどまったものの、連帯率は3割5分弱、そして馬券圏内に絡む複勝率はちょうど5割ということだから大したものである。
勝率と複勝率がこれだけ違うというのもかなり珍しいのではないだろうか。

しかも、その2着も未勝利戦を除けば、オークス、ローズステークス、秋華賞、エリザベス女王杯、府中牝馬ステークスと、3つのGIレースを含む5つの重賞であったのだからますます恐れ入る。
ただ、そのために「どうしてもあと一歩届かないもどかしさ」がこのローズバドの最大の特徴であったということにもなるし、しかしだからこそ、「史上最大級の人気を誇った3勝馬」ということにもなるのだから、ローズバドのファンにとってはかなり複雑な心境であったのではなかったかと察する。

息子のローズキングダムもまた、先日のダービーを振り返るとどうしても母や祖母のもどかしさというか奥ゆかしさというか、いずれにしても日本人なら愛さずにはいられないそんなキャラクターへと成長をたどりそうなのが気がかりではあるが、それでもすでにGIホースとなったのだから、あとは単なるタイトルホースというだけではなく「スーパーホース」へと変貌を遂げるか否か、ローズバドともども注目と言ったところだろう。

ここから先は憶測の域を出ないのだが、もしかしたらローズキングダムの高い人気は、母・ローズバド(あるいは祖母・ロゼカラー)のファンであった人たちが、母や祖母独特の「もどかしさ」を払拭するかのような活躍を見せたことで覚醒した「本当は強い者が好きなんだ!」という思いが爆発的に拡大し、ローズキングダムを盲目的に応援してしまうという部分が少なからずあったのではないかという気がしてならない。
だからこそ、スプリングSや皐月賞での敗退には「またか・・・」という絶望感あふれる心境に追いやられ、そしてダービーの大舞台での復活劇をまるで自分のことのように、あるいはそれ以上に喜んだのではなかったろうか。
しかしその中にも完全に弾ける喜びには至らなかったのではないだろうか。
祖母や母を応援していたときの「あの感情」が再び去来していたのかもしれない・・・

しかしそれでも、やはりロゼカラーやローズバドを応援し続けてきたファンにとっては、ローズキングダムもまた他の誰よりも応援のしがいがある馬なのではないかという気がする。
そして、そういう馬のファンでいられることが少し羨ましくもある。
また、そうしたファンに支えられ、ローズキングダムはこれからも――母・ローズバドと同じように――走り続けるのではないだろうか。

ローズバド(牝12歳)・・・父・サンデーサイレンス、母・ロゼカラー、その父・シャーリーハイツ
主な勝ち鞍・成績・・・フィリーズレビュー(GII)、マーメイドS(GIII)、優駿牝馬(第62回オークス)2着、第6回秋華賞2着、第26回エリザベス女王杯2着(以上GI)