アイビスSD メジロダーリング

B級名馬列伝#48~メジロダーリング(第1回アイビスSD)

夏と言えばローカル開催が各地でにぎわうわけだが、我々関東人にとって夏競馬というと、馬券の重要性とはまた別に、どうしても関東圏からほど近い新潟開催に目が行きがちである。
少なくとも私にとって、夏競馬というと、福島はもちろんであるが、まさに盛夏の連続開催が行われる新潟競馬という印象が強い。
そしてその長い新潟開催の開幕を告げるのが、直線競馬のアイビスサマーダッシュである。

広い敷地を利用した直線1000mというだけで、話題性は豊富であるし、このレースのネーミングも何とも言えないよい響きである。
ちなみに「アイビス」とはibis――すなわち、トキである。土地の名称をレース名にあしらうのは競馬の常套手段であるが、しかし「土地の名称」ではなく「土地柄」をレース名にあしらうというのは、なかなかよく考えられていると個人的には思う。

さて、そんなアイビスSDであるが、昨年で早くも10年目を迎えたアイビスSDであった。
そうした記念碑的なレースでありながら、三連覇を目指したカノヤザクラが、ゴールインは果たしたものの、その後の診断でかわいそうなことになってしまったが、そのカノヤザクラや、後にトップスプリンターに成長を遂げたサンアディユなどをはじめとして、とにかくこのレースは牝馬の活躍が目立つ。
夏という時期的な部分もあるだろうが、昨日の「レースポイント」のところで触れたように、とにかくこのレースに限っては、ちょっと異常なくらい牝馬が活躍するレースである。

昨年の第10回で一区切りついたアイビスSDであったが、当然今年は気持ちも新たに11回目が行われることになる。
その意味を込めて、このレースの第1回目の勝ち馬をここで振り返ろうと思う。
第1回の勝ち馬も、やはり牝馬であった。
アイビスSDの記念すべき第1回を優勝したのが、今はもう見ることがかなわなくなってしまった「メジログリーン」の勝負服がまぶしかった、メジロダーリングである。

「メジロ」というと、メジロデュレン・マックイーンの兄弟、あるいはメジロブライトに代表されるステイヤーや、三冠牝馬のメジロラモーヌ、GI5勝のメジロドーベル、さらにはマックイーンを破ったこともあるメジロライアンなどが活躍したマイル以上の「中長距離馬」というイメージがある。
しかし時代がステイヤーを淘汰し、結果としてオーナーブリーダーの老舗であるメジロ牧場をも淘汰することになったが、そうした時代の流れに懸命に対応しようとして誕生したのが、アイビスSDの第1回勝ち馬・メジロダーリングであったのではないかという気がしている。

アメリカ三冠馬のアファームドの肌にダンチヒ直仔のグリーンデザートという配合で誕生した牝馬メジロダーリングは、それほど生粋の短距離馬という印象ではなかったが、しかし従来の「メジロ」のブランドイメージからすれば、やはりこれは完全な短距離指向という血統と考えるべきなのだろう。
そんなこともあってか、デビュー当初からしばらくは、芝の1400m戦やマイル戦を中心に使われており、スプリント戦を初めて使われたのは、実にデビューから7戦目のことであった。

メジロダーリングと言えば、同じメジロの先輩に当たる歴代の名牝・メジロドーベルと同厩舎であり、大久保要吉調教師がこのわずか1戦で見事にメジロダーリングのスプリンターとしての資質を見抜いたのか、これ以降は完全な「スプリンター」として競走生涯を全うしたのである。

初めての重賞挑戦は、オープン入り初戦にしていきなりGIのスプリンターズステークスであり、このときはさすがのメジロダーリングもブラックホークの前に12着と大敗を喫したが、しかしその後は重賞でもコンスタントに活躍するシーンが目立ったメジロダーリングであった。
そしてめぐってきた重賞制覇のチャンスは、先に行くメジロダーリングにとってはおあつらえ向きの函館競馬場の函館スプリントステークスであった。
このチャンスをしっかりとモノにしたメジロダーリングは、返す刀で新潟直線1000mで話題沸騰となっていたアイビスSDに向かうのであった。

このときメジロダーリングは2番人気の評価を与えられていたが、このときの1番人気は、後にこのアイビスSDを2勝し、スプリンターズSのGIタイトルまで手にしてしまうカルストンライトオであった。
しかし結果は、グリーンデザート×アファームドのアメリカ血統からもわかるように、平坦のスピード競馬ではメジロダーリングに一日の長があった。
シンボリスウォードに1馬身半、そこからさらに半馬身遅れたカルストンライトオを軽々と退けて、見事メジロダーリングは記念すべき直線競馬の重賞勝ち馬第1号に輝いたのである。

このときの勝ち時計は53秒9(良)をマークし、場内は騒然としたことを今でもよく覚えている。

続くスプリンターズSでもトロットスターの2着と頑張ったメジロダーリングであったが、わずかにGIタイトルには手が届かなかった。
しかし、メジロの革新は、このメジロダーリングの登場で、一度は成功したと言っていいのではないかという気がしている。

メジロダーリングは現在、繁殖牝馬として活躍している。

メジロダーリング(牝15)・・・父・グリーンデザート、母・アイルオブグラス、その父・アファームド
主な勝ち鞍・成績・・・函館SS、アイビスSD(どちらもGIII)、スプリンターズS(GI)2着