グランプリボス フランケル

ボス、敗れる・・・

現地時間の14日、イギリスのアスコット競馬場で行われた注目のレース、セントジェームズパレスステークスに出走したNHKマイルカップの勝ち馬グランプリボスは、9頭立ての8着と惨敗を喫した。
うーん・・・期待していたのだが、正直これは残念な結果であった。

確かに、セントジェームズパレスと言えば、ヨーロッパの世代最強マイラーを決定するレースという位置づけであるだけに、そう簡単に勝てるとは思っていなかったし、何と言ってもフランケルの存在はあまりに大きかったから、どこまでこれに食い下がることができるのかを楽しみにしていたというほうが、心の中の素直な気持ちに近いのかもしれなかった。
しかし、まったく見せ場なく敗れるとは完全に想定外の敗戦であった。

近年、日本の競馬のレベルが急激に上昇してきたことは確かであり、また、外国産馬をはじめとして海外でもそれなりの実績を残してきたのが日本の競馬の歴史である。
ただし、これはすでに「日本の競馬のレベルが急上昇した」あとのことである。
グランプリボスの父は、日本が生んだ名スプリンター・サクラバクシンオーである。
バクシンオーが活躍していた当時はまだ、日本の競馬のレベルが高かったとはお世辞にも言えない時代であった。

年齢こそ違うが、サクラバクシンオーと言えば、あのメジロマックイーンと同時に種牡馬入りした名馬である。
そのメジロマックイーンは、スローペースの瞬発力勝負となったジャパンカップでは、ゴールデンフェザントをはじめとして、外国馬3頭に先着を許す4着と敗退していた。
当時はまだそういう時代であった。

だからこそ、もしここでサクラバクシンオーの血がイギリスでヨーロッパの代表を破る、あるいはそれに近い結果を残せば、それはサクラバクシンオーが単に「日本が生んだ名スプリンター」ではなく「日本が生んだ世界の名スプリンター」に蘇る瞬間であると、個人的には考えていたからだ。
しかし、今回のレースに限って言えば、それは叶わぬ夢となった。
サクラバクシンオー自身も、まだその住み心地も定かではない天国で今ごろため息をついていることだろう。
いや、厳密に言えば、ため息をついているというよりも、ズッコケちゃったというのが正直なところではないだろうか?

そう、今回は、まだその映像は目にしていないものの、グランプリボスの気持ちがどうやらレースに向かうそれではなかったという印象が、陣営のコメントからはうかがえるからである。
もちろん、馬場差は大きい。環境もまったく違う。
しかもグランプリボス自身も、どちらかと言えば続けて使われたほうが成績としては安定しているだけに、力負けと言うよりは、初めからあまり走る気持ちがなかったのではないかという気がしてならないのだ。

それは確かに、あのフランケルのマイル戦・2000ギニーの勝ち時計は1分37秒0でありすぎるし、グランプリボスのNHKマイルCの勝ち時計は1分32秒0でありすぎるから、一概に気持ちが向いていないからと決めつけるわけにはいかないが、どこかグランプリボスらしくない負け方であったような気がしてならないのだ。
しかし、グランプリボスはまだまだこれからの馬だから、競走馬としての寿命があまり長いとは言えないヨーロッパで、すでに歴史的名馬への一歩を大きく踏み出しているフランケルが現役のうちに、もう一度海を渡ってチャレンジしてもらいたいものだ。

そして、「日本が生んだ」と言えば、希代の名ステイヤー・メジロマックイーンであるが、サクラバクシンオーと同じ時期に種牡馬入りした名馬の血が、海を渡って目指す舞台もまた楽しみである。
そんな話はまったく出てきていないが、もちろん今年のダービー馬・オルフェーヴルに対して抱かずにはいられない「夢」の話である。
マイル路線を進むことを明言しているフランケル陣営だから、おそらくオルフェーヴルとフランケルがあいまみえることはないだろうが、できればこの世代から、あの芦毛の牝馬と一緒にフランスで行われる「最高峰」の舞台に、いずれ足を踏み入れてもらいたいと願わずにはいられない。

競馬ファンというのは、いや、人間というのは基本的にそういうものなのかもしれない。
目を覆いたくなるような惨敗の後に、より高い場所を目指してほしいと思うこの気持ちは、どう理解しても理解できないし、またそれに反して、抑えようとすることもまったく不可能なのである。

いずれにしても、グランプリボスには無事に日本に帰ってもらって、秋の大きいところをしっかりと、「まじめに!」走ってもらいたいと願う。
そしてまた、それによって自身の威厳を回復することにもなるだろうし、さらには「次なる舞台」への大きなステップとなることだろうから・・・
何はともあれ、今回はお疲れさまでした、ボス!