上半期 競馬

2011年上半期総括

世の中も、競馬の世界も、少なくとも私がモノゴコロついてからというもの、これほどたくさんのことが起こった年というのもこれまでになかった。
あまりにいろいろなことがありすぎて、結局うまい具合に整理できないまま、それでも、いろいろない意味でなんとか無事に、ここまでたどり着いた。

今はもう夏競馬が本格的にスタートしているから、すでに「下半期」に、競馬のカレンダーでも実際のカレンダーでも突入しているわけで、気持ちをキッチリと切り替える意味でも、激動の2011年上半期を個人的に総括したいと思う。
宝塚記念後の帝王賞も含め、馬券的には散々な目に遭ってしまったと言うのが正直なところであるが、しかしながら、GIを中心に、レース自体は素晴らしいレースが多かった。
こんなご時世だからこそ、そうした素晴らしいレースを我々ファンに見せてくれた競走馬たち、そしてジョッキーたちには素直に感謝したいものだ。

確かにGIスタートのフェブラリーステークス、トランセンドの圧勝ぶりは、それは素晴らしかったが、震災後、打ちひしがれた日本の競馬ファンを、そしてもしかしたら、競馬ファンではない日本人も勇気づける大きなできごとがあった。
それがドバイワールドカップのヴィクトワールピサの優勝であり、そしてなんといっても、そのトランセンドの懸命の逃げ粘りであった。

ヴィクトワールピサは、これはもう説明も不要であるくらい大きな仕事をして、日本に歓喜を取り戻してくれたのは言うまでもないが、あのレースが、もう本当にこれ以上ない「最高の形」で決着したのは、何と言ってもトランセンドの必至の逃走と、藤田騎手の完ぺきな騎乗こそがすべてと言っても過言ではないと、私は考えている。
もちろん、ヴィクトワールピサとミルコ・デムーロのスーパーファイトも、それは見事なものであったが、こんなときだからこそ、藤田騎手のファインプレーはうれしかった。

そして、高松宮記念では、キンシャサノキセキが、もう今ではあまり珍しいという印象も起こらない、「ベテランホースのGI制覇」という、こちらも見事な「復活優勝」を遂げ、そして、翌日に発表された電撃的な引退も含めて、スプリント路線らしく、非常に颯爽とした風を我々に与えてくれた。

そしてクラシック。
今年の注目は、牡牝を通じて、何と言ってもレーヴディソールの存在があまりにも大きすぎたため、他は「その他」という扱いをされてしまったために、レーヴディソールが骨折で離脱してしまってからは、昨年の層の厚さがあったからかもしれないが、中には「低レベルの世代」などと揶揄する声も聞こえたほどだが、個人的には――結果を知っているから言うわけではないが――レベルが低いどころか、もちろんレーヴディソールを含めたトップクラスはもしかしたら昨年以上に強いのではないかという思いさえ抱いていたものだ。

確かにディープインパクト産駒のリアルインパクトは実質史上初の3歳安田記念制覇の快挙を達成したが、そういう特殊なケースだけではなく、このリアルインパクトのように、各路線における世代のトップではないと目される馬たちが、堂々とビッグレースで活躍したことが何と言っても素晴らしい世代であると思う。
当然秋以降は、「世代間抗争」が勃発することになるから、昨年の史上最強とされた現4歳世代と現3歳世代の戦いは本当に今から楽しみである。

そして、その「世代の頂点」に輝いたのは、ステイゴールド産駒のオルフェーヴルであった。
これは皐月賞、ダービーとも力の要る馬場での圧勝ということで、その血統からも十分に考えられる底力は証明されたと同時に、この馬の奥深さはちょっと測り知れないものがある。
というのも、同じようにタフなダービーで精魂尽き果ててしまったような印象もあるロジユニヴァースの優勝に比べると、こちらオルフェーヴルのダービー制覇はまったく楽々の優勝という印象を受けたからである。
もちろん、ロジユニヴァースのようにダメージが残ってしまう可能性もあるが、これでケロッとして秋にさらなる成長を見せていれば、これはたいへんな器であるかもしれない。

そして、このオルフェーヴルとて、皐月賞までは「伏兵」の評価に過ぎなかったわけだから、やはりこれは、オルフェーヴルだけではなく、この世代の奥深さというものを感じないではいられない。

マイル路線では、アパパネが女王ブエナビスタを破って新女王に輝いた。
個人的にも大好きな馬なので、これは実にうれしいことであった。
狙った獲物は確実に手にするという、女王でありながらヒットマン的なキャラクターも、今後何かさらに大きなことをやってくれそうな、そんな期待を抱かせてくれる。
そして、そういう計算しつくした仕上げを完ぺきにほどこす国枝厩舎、スタッフには脱帽以外の言葉はない。

そして、秋に注目されるのがオークス馬のエリンコート。
デュランダル産駒というだけで偏見を持って痛い目を見たが、しかし、優駿牝馬となってしまったからには、秋以降は、いろいろな意味で「己との戦い」が待っていることになる。
頑張ってもらいたい。

古馬では、天皇賞・春を勝ったヒルノダムールが秋に渡仏ということで盛り上がっているが、注目は宝塚記念を勝ったアーネストリーのほう。
ブエナビスタをあれだけ完ぺきに負かした馬はこれまでいなかった。
これは本物以外の何物でもない。